リスクとどう向き合うか - 金融リスク最前線 - 前書き
2008/01/28 07:00
- 香港金融が透けて見える、毎月一回の香港金融人インタビュー -
百聞は一見に如かず、一聞もまた百見に如かずや。
香港で実際に金融機関で働いている人たちにインタビューし、
高層ビルを眺めているだけでは決して伝わらないナマの声を
お届けします。
香港で実際に金融機関で働いている人たちにインタビューし、
高層ビルを眺めているだけでは決して伝わらないナマの声を
お届けします。
今回は、投資に付きものの「リスクについて」です。そもそもなぜ今リスクについて考えたいのか、ということについては、大きく二つの理由があります。
1つ目。個人的な怒り。
まず、私のような立場の人間からは本来歓迎すべきことなのかもしれませんが、小泉政権による無軌道な「個人資産の貯蓄から投資へ」という大方針により、何のトレーニングも受けていない個人が投資に巻き込まれていったということに対して非常に怒っておりました。
2001年の「骨太の方針」で、1.金融所得の特別減税(20%→10%)、2.銀行による証券業務への参入障壁の除去、3.2005年からの郵便局の投資信託の販売が認められました。
1.の特別減税は個人投資家だけでなく日本マーケットの主要プレイヤーである外国人投資家もメリットを受けるもので、日本の株式市場を活性化させる政策であり文句はありません。
問題は2.と3.です。
まず2.について。結論から言うと、アメリカ的資本主義の導入の結果、銀行の財務体質変化のきしみが、個人投資家に押し付けられているのです。
銀行って、何をするところですか?お金を貸すところですね。個人から預かったお金を、法人に貸し出す。それが本来の銀行の役割でした。
しかしアメリカ的資本主義では、ROEすなわち株主利益率が高い企業が評価されます。株主利益率とは、一株あたりいくらの利益を上げたかという指標です。利益は、資産から資本と負債を除いたもの。利益をより多く計上するためには負債を圧縮する必要があります。限界まで負債を圧縮することが、株主利益率を向上させるのです。
しかし、このアメリカ的・資本主義を日本の銀行にも導入すると少し困ったことが起きます。
「貸したお金」は負債に計上されますので、銀行が本来すべき「お金を貸す」というビジネスが大きくなればなるほど株主利益率は下がっていきます。負債が増えるわけですから。
そこで銀行は、お金をこれ以上貸すことを放棄し始めました。その代わり、証券や投資信託などの手数料ビジネスを多く手がけたのです。手数料ビジネスを大きくし、銀行の本来業務を減らせば、利益を出しつつROEを上昇させることができます。
しかも、投資信託は手数料ビジネスです。投資家が投資信託を「買ったとき」「運用中」「売ったとき」すべてにおいて手数料がかかるということは、銀行がサヤを抜けるということです。不良債権で手痛い目にあった銀行は貸し倒れるかもしれないところにカネを貸すよりも何も知らない個人投資家に投信を売ったほうが確実に利益になるのです。
現在は全投信販売残高のうちおよそ半分が銀行経由となっているそうです。銀行がいかに力を入れて投信の販売をしているかがわかります。
ある銀行の頭取は、「1500兆円のうち半分が預貯金となっている。それが全部投資信託に回れば、大変な手数料収入になる」と発言したそうです。
リスクに対する個人投資家への十分な説明もないまま、単に「貯蓄から投資へ」という流れに乗っかって、ROEを上げようとする魂胆がミエミエで、この発言を何かの雑誌で読んだとき「投資から貯蓄へ」運動を開始しようかと思いました。
このように、アメリカ式資本主義の導入によって銀行の財務体質が変化し、個人投資家はそれを甘受しなければならない立場に追い込まれているのです。迷惑なほどかかってくる取引銀行からの投信の勧誘電話でも、それが懇意にしている銀行員だったら「申し訳程度に」勧められるがままに投信を買ってしまうかもしれません。
そうやって、銀行本来の使命である企業へのファイナンスはどんどん少なくなり、私たちは銀行の勧める投信を買うことで銀行のROE向上に一役買っているわけです。
そして3.ですが、驚くべきことに郵便局の局員は「リスクを全然勉強していないし、するつもりもない」ということです。一度地元の郵便局で「フィデリティの日本株ファンドのリスクについて知りたいのですが」と言ったところ、局員が説明したのは「元本割れするリスクがあります」と繰り返すのみでした。
それどころか「郵便局が勧めるものだから安心」という雰囲気ですらありました。少し細かい質問をすると「帰って目論見書を読んでください」という始末です。今は投資信託もポピュラーになってきたことから、郵便局員のレベルも上がっているといいのですが。本人たちですら知らない「リスク」を個人投資家に負わせるなど言語道断!とまた「投資から貯蓄へ」運動への火が燃え上がりそうになりました。
二つ目。しかし現実は。
しかし「投資から貯蓄へ」運動を大展開したところで、何の意味もありません。しかも世界は資本主義化しており、資本主義のルールの一部である「リスク・マネジメント」を知らないわけにはいかないのです。
昨年のサブプライム問題はまさに反面教師的な教訓でありました。この問題は世界中に波及し、BNPパリバが運営していたファンドは解約不能となりました。機関投資家のみならず、個人投資家までもが「リスク」について考えなければいけない時代です。
それなら、「投資から貯蓄へ」なんて暗い運動にエネルギーを使わず、明るく楽しくこの「リスク時代」をサバイバルしなきゃいけない、と想い今回の金融人にインタビューをしました。
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今回の香港金融人インタビューは企業広報を経たインタビューではなく友人ベースのインタビューです。というわけで、個人名はもちろん、社名など一切おおやけに出来ないことをご容赦ください。
その友人は、アメリカの大学を卒業し、しばらくアメリカの銀行の融資部で働いた後、香港では世界四大会計事務所のひとつに勤め、商業銀行・投資銀行向けにリスクに関するアドバイスを提供しています。スーツ姿のかっこいい、若手のキャリア・ウーマンといったところです。

