香港金融人インタビュー 津田弁護士・マイペースな突破力 4/5

2009/07/02 01:09
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小椋 : 少し弁護士業界全体のことについてお話させていただきますけれど、先ほど先生がサラッと自分のキャリアということをおっしゃってましたけれど、弁護士でもキャリアが必要なんですね。弁護士だけではダメっていうか。

津田先生 : そうなんです。これは昨今の司法改革の影響もありますね。僕が司法試験に合格したときは、合格者数が毎年大体1,000人でしたけれども、今では年間2千数百人の合格者が出ており、今後は議論はありますけども年間3,000人の合格者を出す計画になっています。

小椋 : 合格者を増やしたのは何か理由があるんですか。

津田先生 : 合格者を増やしたのは、当時は政財界の要請でもあったんです。弁護士の人数を増やして単価を下げたいということと、また、当時は企業内弁護士すなわちインハウスロイヤーを増やすという名目で。

小椋 : 企業法務を監督する弁護士ですね。

津田先生 : ところが、実際フタを開けてみると修習出たばっかりの弁護士を採用してくれる会社は非常に少ないんですね。

まぁ考えてみればそうで、当たり前のことですが弁護士としての経験はないわけで、実際の法律実務のことはまだほとんど分かってないんです。新人弁護士なんて勉強ばっかりしてきたわけやから、社会のこと何も分かってないんです。社会経験がないですからね。

その社会経験がない弁護士を高給で採用して、果たしてモトが取れるのかという問題もあります。また給料をどういう基準で出すのか、弁護士資格のない新卒とどれくらい差をつけるのかということもありますね。

また、弁護士側も基本的にはその会社の企業法務にしか携わらないですから、弁護士に必要な重層的な実務経験と知識が蓄積していかないという問題もあります。また逆に企業内の法務全般には詳しくなるものの、企業内の論理だけではなく、第三者的な目で問題の解決にあたるという能力が育ちにくいという状態もあり得ます。

そういう構造的な問題がありながら弁護士の数だけ増やしてしもたから職にあぶれる弁護士も出てきて問題になってるんです。すなわち修習を終えたのに採用してくれる弁護士事務所がないという状況ですね。

結局、企業法務のニーズは高まりつつあったものの企業が呼びたいのは10年以上弁護士事務所で経験を積んだ中堅以上の弁護士であって、新卒ではなかったんです。

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小椋 : 勉強すごく頑張って弁護士になったにも関わらず、就職できないとなるとツライですよね。

津田先生 : もともと欧米のリーガルな社会を目指してたのかもしれませんが、大きく的を外している状況ですね。

小椋 : 僕は日本人の「同質性」を語るときに日本のいわゆる進歩的な人のように否定的な文脈は使わないんです。同質性があると安くつきますから。

アメリカのような国民が異質な人同士が仲良く共存していくためには契約や紛争予防のための法務が必要になりますよね。だから弁護士が年収1億もらっても不思議じゃないんです。

まとめるのが難しいものをまとめているわけで、「こんなことするヤツがおるんか」ということを想定しながら契約書なりルールを作っていかなければならない。

弁護士だけじゃなくてマネジメントもそうですよね。アメリカにマネジメントの泰斗が多いのは異質なメンタリティを持った人たちを同じ方向に向けさせるのが非常に大変だからです。そこに工夫の余地があるわけで、日本のような「空気読めない=ダメなヤツ」という式はあり得ません。

僕も大概空気読めませんが、空気読めないメンタリティは一つのコストですよね。暗黙の前提が共通の前提でない場合にはルール作りなどのコストが発生しますから。

そういう意味で日本が契約社会になるにはずいぶん時間がかかると思います。国民性はまだまだ同質ですし、個人間の信頼は水と同じようにまだまだコストがかかる領域にはなってません。

香港人は基本的に好きですけれども「最初から相手を信頼しない」というドライな考え方はまだ好きになれません。もちろん自分を守るためには必要ですが、それで社会が負うコストは非常に高くついてますね。日本はそういう不信がもたらす高コスト社会にしようと思て弁護士の数増やしたんでしょうかね。

津田先生 : いや、正確には企業法務のニーズの高まりがあったからです。だから個人の信用がどうとかいう話ではないと思います。日本の国内での企業同士での紛争解決にしても、国境をまたいで紛争が起こった場合にしても、どう解決していくのかという経験値がまだまだ足りない。そこを増やしたかったんでしょう。

また、弁護士の数が増えると競争が激しくなって全体として単価が下がりますし、弁護士もまた自分の専門性を高めようすることは確かで、これは利用する側の人にとっては確かにメリットかと思います。

ただ、逆の危険性もあって、競争激化のため事務所維持に追われる弁護士が増えると、報酬欲しさに利用者を不当に誘導するケースも考えられるんですね。つまり、法的に見ると裁判でお金が取れなさそうなケースでも、着手金が取るために敢えて訴訟に持ち込んでみたり、というようなことですね。実際弁護士数の非常に多いアメリカには「アンビュランス・チェイサー」という言葉がありますが、日本を不必要に訴訟社会にして行くような危険性ですね。

ですので、弁護士の数が適正に増える分にはもちろんいいことなのですが、逆に増やしすぎるとデメリットも出てくると思いますので、この辺のバランスが重要だと思いますね。